もぐらのモービー
むかしある所にもぐらのモービーが住んでいました。
モービーはもぐらですから、生まれた時から黒い眼鏡をかけて
暗いところに住んでいました。土の中に穴をほって住んでいました。
モービーはもぐらのなかでも変わり者と呼ばれていました。
モービーは他のもぐらとはちがって土の外へ飛び出して鳥と話したり
していました。みんなが知っている土の中の木の根っこや草の根っこは
土の外ではどんな風に伸びているのか、風がふき、どんな風にそよいで
いるのか、という事をモービーは知っていました。
もぐらだから土の中にいるのが当たり前だけど,土の外に出ても大丈夫
なんだ、とモービーはみんなに言いました。しかしみんなは耳をかしません
でした。
ある時モービーはみんなが危ないと言う所まで出かけていきました。
その近くには大きな川が流れているので、土がもろくなって危ないという
のでした。確かにそのあたりは土がもろくなって、穴を掘ると土がくずれ
そうな感じでした。しかしモービーは喉がかわいていたので、川の水が
飲みたいと思いました。
川べりまで穴を掘り、土の外に出ました。
目の前に川が流れていました。
モービーはゆっくり川に近づき、水を飲みました。
「美味しい」
もぐらたちは土の中の、雨がしみだした地下水を飲んでいました。しかし、
地下水はうんと深く掘らないといけないので、ふだんは雨が土にしみてきたのを
飲んでいました。
「地下水と同じくらい、美味しい。」
モービーはぐびぐびと水を飲んでいるうちに、水に酔ってしまいました。
「うい〜。」
モービーは川にざぶんとはまってしまいました。
「助けてー。」
モービーは今まで泳いだことがありませんでしたので、おぼれてしまいました。
「大丈夫か」
少し流されたところで、おぼれているモービーを助けてくれたひとがいました。
「は、大丈夫です。ありがとうございました。」
その時、モービーは生まれてからずっとはずしたことのない黒い眼鏡を川に
流してしまいました。はじめての黒い眼鏡なしの世界を見ました。その時
目の前にいたのは、助けてくれたビーバーでした。
「そうかい。良かった。昨日たくさん雨が降ったから、流れが早くなっているよ。
気をつけてね。」
「はい。」
「ぼくの名前はビョン。このあたりに住んでいる。きみは?」
「わたしは もぐらのモービー。向こうの太陽の花の下の土の中にいつもいるわ。」
「もぐら? だけどモービー、君はどう見てももぐらじゃなくてビーバーだよ。」
「エ? 私はもぐらよ。もぐらのおとうさんともぐらのおかあさんの子よ。」
「お父さんの名前は?」
「わたしのおとうさんは ビビル。おかあさんのなまえは ダレル。」
「ひょっとして、きみのおとうさんおかあさんは、雨がどっさり降って、いつ川が氾濫するか
わからない、いつ恐ろしいブルドーザーというものがやってきて、生活をめちゃめちゃに
してしまうか、わからない、って 言っていないかい?」
「えぇ,そうね。その通りよ。どうしてそれがわかるの?」
「これはおじいさんから聞いたはなしなんだけど、おじいさんが子供の頃、ものすごく
たくさん雨がふって川が何回も氾濫したときがあったんだ。その時、川にダムを作って
そこに住んでいたビーバーのほとんどが家がこわれて流されてしまったんだ。その時
ビーバーたちの中に『不安病』という病気がはやったんだ。」
「不安病?」
「そう。毎日の生活の中で出会う色んなことがみんな悪い事のように思えてくるという
病気なんだって。」
「え。そんな病気があるの?」
「友達が自分に言ってくれることや、してくれることが全部悪い事のように思えるんだって。」
「え。」
「それだけじゃなくて、これから先生きていても少しもいい事もない、恐ろしいことが
待ち構えているんだと思い込んでしまう。」
「ぐ。」
「こわくてたまらなくなる。こわくてまっすぐ見るのがこわくなる。だから黒いめがねをかけだす
んだ。はじめはひるまだけだったんだけど、そのうちにひるもよるも起きてるあいだはずっと
かけて。さいごには寝ているあいだじゅうもかけるようになる。」
「じゃあ、わたしのこのめがねは。」
「そうだよ。きみのおとうさんかおかあさんかおじいさんかだれかがいちばんはじめにめがねを
かけはじめたんだよ。そのうちにかぞくみんなが黒いめがねをいつでもかけるようになり、
それだけでなく、こわいからといって、土の中にもぐってくらすようになったんだ。」
「そういえば、土の中に住んでいるのは、おとうさんとおかあさんとおじさんとおばさんといとこ。
おじいさんはなくなったけど、おばあさんのことは聞いていないわ。」
「そうか。きみのおばあさんは土の中に入らなかったのかもしれないね。」
「おばあさんはバアビイという名前だったわ。おじいさんはモオジイ。」